まちかどの
ノコギリ屋根

日絹織物株式会社


 桐生市有鄰館脇の酒屋小路(近江辻)を入り、東に向かうと、間もなく右手に日絹織物株式会社のノコギリ屋根が見えてくる。

 垂直に切り立ち、風雪を重ねた木造二連のノコギリ屋根の隣に、真新しい四連の赤いノコギリ屋根が五月に完成した。通所介護施設「サンホープケアパーク仲町」の建物であり、桐生市で最も新しいノコギリ屋根建造物である。最大の特徴である北向きの天窓からの採光も図られ、明るく清潔な介護施設である。

 日絹織物が駐車場として使用していた土地を有効活用するにあたり、中心市街地住民の高齢化が進んでいることや本町通りに近接していることなどから、介護施設の誘致を決め、建物のデザインをノコギリ屋根にした。

サンホープケアパークの運営主体である医療法人日望会では「同じ敷地内にノコギリ屋根工場があることから自然な感じでデザインが決まりました。利用者の家族の方にも好評で、近所のお年寄りも見に来られますよ」と話している。
 日絹織物は、日本絹撚株式会社の流れを汲む工場であり、現在の社長は小林當太氏。主に原糸から吟味した強撚糸使いの衣料用織物(先染・後染)を製造し、伝統の技術で高い評価を受けている。

同社の前身である日本絹撚(当初は桐生撚糸合資会社)は、明治三十五年に桐生の機業界発展のため原料加工の改良が急務であるとして設立された。

 現在のJR桐生駅南口の広大な敷地にノコギリ屋根を連ねる大工場だった。米沢、福島、保土ヶ谷に分工場を持ち、横浜に支店を設け、撚糸の販売を中心に原料の買い入れ、生糸の仲次業も営み発展を遂げた。桐生市文化財保護課が置かれている絹撚記念館(桐生市重要文化財)は日本絹撚の事務所棟であり、唯一残されている建物である。

 日本絹撚は、昭和七年八月に撚糸と織物との関係を研究するため試織部を市内東町(現在仲町)に建設。この工場が本社から分離独立し、昭和三十一年に創立されたのが日絹織物株式会社だった。

 ノコギリ屋根は二連のものが二棟あったが、介護施設建設に伴い、一棟と事務所棟を解体した。残る木造瓦葺きのノコギリ屋根工場は現役で稼動し、懐かしい機音が有鄰館裏の路地に響いている。時代の要請の中で誕生した通所介護施設のノコギリ屋根の対照的な佇まいが、新たな町なかの風景を創り出している。
 ▽日絹織物梶°ヒ生市仲町1―2―43

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